2010-05-11

夢枕獏著「沙門空海 唐の国にて鬼と宴す」

先月末、夢枕獏著 「沙門空海 唐の国にて鬼と宴す」文庫本四巻を読了。延暦二十三年 (A.D.804) の遣唐使船で入唐した空海と橘逸勢が、楊貴妃にまつわる怪事に関わってゆく伝奇小説。きっとまだまだ書きたい事が有ったのだと思うが、それ以上にこの話を完結させてやりたいという気持ちが強かったのだろうと感じる。読み始めは、空海と橘逸勢の関係が陰陽師の安倍晴明と源博雅だなぁと感じるも、進むうちに気にならなくなった。昔の作品に比べ書き方にネットリ感は少ないが、主人公コンビを始めとした登場人物達のキャラクター立てや係わり合いが、実に夢枕獏らしく満足。

但し、長年掲載誌を渡り歩いた所為もあるのか、複数の章で同じ説明をしていたり、逸勢の鳳鳴と言う僧への「存外に良い漢であるかもしれぬ」評が二度ありオヤッと思ったり、劉雲樵の妻•春琴の消息は、胡玉楼の妓生•牡丹がいつの間にかフェイドアウトしてるぞ、といった辺りが気になった。そして、登場人物みんなの事をもっとたっぷり読みてぇ、という気分になるのが大問題かもしれない。

読後、陳舜臣著「曼陀羅の人 空海求法伝」を無性に読みたくなり本棚から引きずり出す。やっぱり面白い。あれ? 上巻で空海に「送声の術」というのを使った女性、中巻で尚珠だと明かされたのに下巻では尚玉になってる事に今更気付いた。

2010-02-28

落雪注意

小学校一年生の冬だったと思うが、屋根からの落雪に埋まり救出された事がある。

母と兄と私で暇つぶしに家の回りを一周している最中、私だけ遅れてしまい二人に追い付こうと走り出した。万が一雪が落ちても走り抜けられるだろう、と近道になる屋根の下を通りかかった瞬間に頭上からの圧力。正座をして上体を前へ倒し両腕を前に投げ出した、何かの宗教の祈りのポーズ風の体勢で雪に埋まった。この姿勢のおかげで口と鼻が塞がれず膝頭との隙間で呼吸出来たのだが、完全にうつ伏せになってしまったり或は仰向けに倒れていたらと思うとぞっとする。

埋まって先ず、体を持ち上げようと試みたが湿った雪はびくともしない。指で少しずつ雪を掻けば動ける空間を作っていけるか、とも思ったが、指先は幾らか動くものの手の甲を押さえ付けられていて無理だ。あぁこのまま死んでしまうのだなぁ、うかつに雪の積もった屋根の下へ近付いたのだからしょうがないよなぁ、と自分でも不思議なくらい穏やかに諦めた。

が、異変に気付き私の名を呼ぶ母の声が聴こえたとたん急に、これ又自分でも不思議なくらい動悸が激しくなり恐ろしさがこみ上げてくる。雪に阻まれて自分の声はほとんど外に聞こえていないだろうと思いながらも、精一杯ここだよここと叫んだ。雪山を見つけた母は、兄に家にいる祖父を呼びに行かせ、声を掛けながら近付いてきた。少しして聴こえてきた祖父の声が暢気さを感じさせるくらい落ち着いていて、すごく安心した。

スコップで掘り出され、確か祖父に抱えられたまま家に入ったと思う。外服を脱がせられながらこれはたっぷり叱られるなぁと思っていたが、祖父はどおれこっちさ来い寒かったべぇと私を抱っこした。長時間埋まっていた訳ではないしむしろ暑いくらいだったのだが、黙って抱っこされていた。

毎冬必ず落雪死亡事故の報道を見聞きするが、その度に寂しかったろうな苦しかったろうな切なかったろうなと遣る瀬無くなる。

2010-01-31

「蘇える金狼」の違和感

蘇える金狼、という題名を目にする度に何となく収まりの悪さを感じていたのだが、やっと理由が判った。
・蘇える金狼 ←違和感
・蘇る金狼  ←安心感
送り仮名の「え」が原因だった。これ、わざとなのかな。